2021年8月のこと

今月は(正確には招致以来だけど)オリンピック、にまつわるあれこれに終始うんざりしていた。

政治について、うんざりしたり呆れたりすることがあまりにも多くて、ついその内訳を忘れてしまい、「うんざり」とか「馬鹿げた」という印象だけが頭の中にぼんやり浮遊したような状態になってしまいがちなのだけれど、うんざりの内訳や詳細を記憶していないと何も解決しないし、何度でも同じことが起きるから、しつこく心にとどめていたい。ほんとうならこの夏食べたアイスの味とか(ハスキージェラートのレモンヨーグルト、Dancyuに載ってたカルパシのかたのレシピでつくった焦がしマスタードシードの入ったココナッツアイスなど)、コウモリランの新芽が出た喜びばかり覚えていたいのにね。

今月はなんだか思い通りにことが運ばないことばかりだった気がするけれど、考え直してみるとそれは毎月そうであるようにも思う。

荒天の日、収穫間近に茂っていた大葉をベランダに置いたままにしていたら、一夜にしてからからに枯れ果てていた。

バスティーユ監獄に閉じ込められたマリー・アントワネットは一夜にしてすべての頭髪が白髪になったと『ベルサイユのばら』に描かれていて、あくまで比喩的なものだと理解していたけれど、台風の影響を受けた大葉はまさにそれだった。室内に入れておかなくて悪いことをしたと思いながら気の毒な大葉を引っこ抜こうとしたら、ちょっとやそっと力を加えたくらいではとても抜けないくらい強力に根を張っていて、それが余計に大葉の哀れさを増した。抜けない大葉をほったらかしにしていたら、数日後、小さな葉が新たに茎の脇から出ていて驚いていたら、結局その葉はすぐに枯れてしまい、今度こそ根も枯れ果てたのかするりと抜けたので、捨てた。

次に、冷蔵庫が壊れた。ある朝冷凍室を開けたら、いつもとは冷気の感じが違っていた。
10年近く前、一人暮らしをはじめたときに買った無印良品の家電3点セットの素朴なツードア式で、最近では扉がゆるくなり、冷蔵室の扉を勢いよく閉めると冷凍室の扉が開いてしまうこともあったので、今回もそれで開いていたのかな、と希望を抱こうとしたけれど、残念ながらそれ以降、冷蔵庫がふたたび冷えることはなかった。
慌てながらも今後10年くらいは使うことを考えて選んだ冷蔵庫が到着するのは10日後で、また間の悪いことに、そんなときに限ってネットで買った冷凍の食材が大量に届いたうえ、家族は仕事のためほとんど家で食事ができず、仕事の傍らほぼ一人でしゃぶしゃぶと鰹のたたきとうみぶどうとハンバーグ、朝からしらすの乗った海鮮丼と卵焼きなど、傷みやすそうなものから味わう余裕もなくほとんど投げ捨てるように無理矢理胃袋におさめ続けるのはけっこうな悪夢で、冷蔵庫がぬるくなり限界に至った食材を捨てたあとしばらくは食事自体をいとわしく感じてしまい、ゼリーやカップスープばかり食べていた。
新しい冷蔵庫は前のよりだいぶ大きく、存在感がある。まだ他人が居候しているような感覚なので、打ち解けるためにやたらと食材を買って詰め込んでいる。

極めつけに、風呂場から出るときに足を滑らせ、全裸のまま風呂場の入口の角に背中をしたたかに打ちつけた。背中と肘と膝には赤、赤紫、紫、青、黄色、黒がグラデーションになった色とりどりの不吉なあざができていて、自分の身体ながらとても気の毒な様子になっていた。

 

こんなことばかりが立て続けにあると、点と点を結びつけて不幸な星座を描きたくなってくるけれど、現実の世界は『名探偵コナン』ではないので、それもこれも全部たまたまってやつで、適切な分量以上につらさを感じなくてもいいんだよなと思う。