2022年7、8月のこと(病の夏)

今年の夏、我が家は順番に誰かが病んでいた。

 

まずは私が、新型コロナウイルスに感染した。いよいよだ、と思った。

立って動けないわけではないが、極力横になっていたいような倦怠感がやってきた後38.8度まで熱が上がり、家にあった解熱剤を飲んで眠ったら一日で下がった。少しだけ、頭痛もあった。

新型コロナウイルスの症状として、倦怠感はよく挙げられる。普段から体力がなくて疲れやすく、何事もなくともおおむね座るか横になっていたいほど常々だるくて仕方がない自分に感染した場合の倦怠感を区別できるだろうかと前々から思っていたけれど、きちんと区別できた。身体全体にいつもよりやんわり強めに重力がかかっているような、ずっしりとしただるさだった。

「割れたガラスを飲みこんだかのように喉が痛む」と感染した誰かが言っているのをいつかどこかで見たけれど、自分の場合はエアコンのつけっぱなしによる乾燥、もしくは前日の喋り過ぎ、程度の喉の違和感に始まり、ピーク時においても「普段と比べたら少し痛いような気がするかもしれない……?」くらいの状態で済んだ。

療養期間が終わる二日ほど前から突然、それまでは出なかった咳が出始めた。終始咳き込んでいるわけではないけれど、一度咳き込み始めるとそれなりにしつこく続いた。療養期間が終わった後、病院に行って診てもらうと、肺の音は綺麗だと言われ、吸入を処方してもらった。十日間ほどすると咳は治まった。

発熱相談センターや発熱外来がパンクしており、診てもらいたくても電話が繋がらないと報じられていた時期だったものの、かかりつけではない患者も受け付けている近所の病院の発熱外来に朝一で電話をかけてみたところ、運良く一度目でつながり、昼過ぎには診てもらえた。電話の対応をしてくれた人も、医師も看護師も、とても親切だった。

自分の場合は紛れもなく「軽症」だったし、かかりつけがないにもかかわらずたまたま病院にもすぐにアクセスすることができ、感染して、症状がある中でも運が良い方のケースだったのだと思う。だからと言って、基礎疾患がなく比較的若くても誰もがこのように軽く済むわけではないし、依然医療の現場が切羽詰まっているという話を身近なところでも耳にして、感染しないに尽きるとしか言えない。

 

狭い賃貸マンションの中ででき得る限りの隔離と換気、マスク、消毒などの感染対策を行なったおかげか、夫には移らなかったけれど、それから少し経って、夫は季節の変わり目に身体が翻弄されているようだし、そのうえ今度は猫が体調を崩し、動物病院に駆け込んだ。幸いにも猫はすぐに回復した。

 

そんなこんなでさまざまな予定をキャンセルしながら8月が終わり、まだまだじっとりとした暑さが続いているものの、日が暮れて以降は強烈な熱気も引くようになり、秋の虫が鳴いている。

そうめんのストックはすべて食べ終えたし、桃もそろそろ青果売り場からなくなるだろう。

アップルサイダービネガーに蜂蜜とシナモン、カルダモン、クローブ、ジンジャーのパウダーを少しだけ入れ、炭酸や冷たい水で割ったものをよく飲んでいて、家族が順繰りに病んでいたこの夏のことは喉にわずかに引っかかる酸っぱさとスパイスの微かな苦味と共に記憶される、のかもしれない。

 

夏らしい夏を過ごしたとは言えないけれど、これもまた夏だった。